労働基準監督署の調査

さて、ここからは各調査機関の実態や調査方法をご紹介します。

今回は労働基準監督署(以下「労基署」という)です。




 どんな調査があるの?

経営者の方は労基署という言葉を聞いて、あまりよい印象はもっていないかと思います。

労基署は厚生労働省の傘下で主に職場の労働条件や安全衛生、労災保険の業務などを行っており、調査については主に3つの種類があります。



1.定期的に入る調査
これは厚生労働省の方で年度別に作られる運営方針に基づいて調査を行うもので、ある程度業界や職種を絞った方法がとられます。

したがって全ての業種に定期的に調査が入るわけではありませんが、狙われやすい業界といえば建設業や運送業となります。

建設業の場合は労働災害(落下事故など)が他の業種に比べて発生しやすいという面がありますし、運送業などは積み込みの時間や手待ち時間(お客や荷物を積むまでの空いている時間)といったものがあり、労働時間が長くなる傾向があるためです。

特に運送業は長時間労働による過労や飲酒運転などによる大型トラックの交通事故(中には死亡事故など)が多発しているため、労基署としては注目?している業種でもあります。

もし同業他社などで調査を受けたという情報が入った場合、あなたの会社に明日にでも調査の連絡が入ったとしてもおかしくないでしょう。

また、最近ターゲットになっているのが、小売・サービス業です。

特に飲食店や小売店などは営業時間が長くなっている傾向がありますので、きちんと労働時間を守られているのか?休憩をきちんと取らせているのか?などを調べられるケースが多いです。

このような定期的な調査は事前に労基署の方から「何月何日に調査に伺います(あるいは労働基準監督署まで来て下さい)といった指示が入りますので、事前に準備することは十分に可能です。



2.労働者から申告があった場合の調査
これはちょっと厄介なケースですね。
労働者が何らかの不満を持っていて、それを労基署に申し立てるといった場合です。

労働者が労基署に駆け込む理由としては、不当に解雇された、残業代がきちんと払われない、の2つが圧倒的に多いです。

先日も私が労基署へ行ったとき、きちんと残業代が払われなくて困っているという相談をしに来ていた若い方が何名もいました。
中には「弁護士をつけて訴えてやる」と息巻いた方もいました。

労働者からの申し立てで調査が入る場合は、労基署の忙しさにもよりますが、比較的2~3ヶ月程経ったあとに実際に会社へ調査が入る場合が多いです。



3.労働災害があった場合の調査
これは建設業などに多く見られるケースですが、仕事中のケガが多発した場合や死亡事故が発生した場合にはこの調査が入ります。

死亡事故などを起こしてしまった場合は必ずといっていいほど調査は入ります。
その際には今後の事故の再発防止を書面で提出するとともに、経営幹部が労基署まで呼ばれて指導を受ける(怒られる)ことになります。

労基署としては事故を防止する目的もありますが、重大事故(死亡事故など)は労働者本人や遺族などに支払う労災給付も多額になりますので、できるかぎり事故はだしたくないという理由もあるでしょう。




 調査ではどんなところが見られるの?

調査の際に注目される帳簿書類としては賃金台帳をはじめ、出勤簿(タイムカード)、就業規則、賃金規程、労働者名簿などがありますので、きちんと整備しておかなければなりません。

また、よく指摘されるのが、残業(時間外労働)をさせる場合は36協定(会社と従業員との約束を書面で交わしたもの)を労基署に提出しなければならないのですが、これを提出していない経営者が数多くあります。 

この部分は労基署の絶好のネタになってしまいますので、ご注意を!

なお、監督官も手ぶらでは帰れません。

何かしらの法律違反を見つけて是正勧告書に記入し、経営者に突きつけてきます。

例えば出勤簿に労働時間(何時から何時まで働いた)が書いていない場合には今後正確に記入して下さいという是正が入りますし、残業代がまったく払われていないと監督官が判断した場合には、「過去2年分まで遡って支払うとともに、きちんと支払ったという証明(給与明細など)を何月何日までに提出して下さい」と言ってきます。

(なぜ2年分かというと、法律で賃金債権の時効が2年と決められているからなのです)

しかし、監督官も鬼ではありません(中には鬼のような人もいますが・・・)。

過去2年分まで遡って支払ったら会社が倒産してしまうといった理由をつけることによりその期間を短くしてもらえる場合もありますし、是正する期日を少し先まで延ばしてもらうことも可能です。

このあたりは交渉力次第ですね。




 会社としては何をするべきか?

会社にしてみれば調査なんて歓迎できるものではありません。

そうはいっても実際に何万社という会社に調査が入っていますし、私の知っている監督官は1週間のうち4日程度は外出しています。

外出しているということは、どこかの会社へ調査に行っているということですから・・・。

そうなると、会社としては以下のような対策が必要です。



1.事前対策として
まずは調査が入っても大丈夫なように内部体制をきちんと管理する

これは帳簿書類の完備はもちろんのこと、就業規則や賃金規程などをきちんと整備し、従業員とのコミュニケーションをより深めることで調査に対するリスクを回避することができます。

例えば労働時間や残業代についても法律と実態がかけ離れてしまうのは、ある意味やむを得ないと思います。

そこをいかにカバーするかがポイントになりますが、労働時間については1年単位の変形労働時間制を導入したり、残業代も一切払わないのではなく、毎月20時間までは時間外手当として払っているという事実があれば労働者ともめる確率は低くなりますし、労基署の調査が入った場合でも厳しく攻められることはありません。



2.事後対策として
調査が入ってしまうとわかったら、専門家(社会保険労務士など)に調査の立会いをお願いし、事後対応までおこなってもらう。

といった策が考えられます。

そして監督官にはあまり逆らわない方がいいでしょう。

まずは監督官の言い分を聞いた後に、こちらの言い分をぶつけた方が、監督官の感情を掻き立てずにすみます。

ただし、経営者としても(改善)できることとできないことがありますので、そこは率直に会社の実情を説明するべきでしょう。

例えば

「労働時間が長くなるのは従業員が少ないからで、いい人材を採用したいと思っていてもなかなか集まらない。

だったら労基署が人材採用の手伝いをしてくれるの?

してくれないよね。

だから今の人数で頑張ってもらっている。

労働時間を減らしたら会社は売上が下がってしまって、従業員の給料も払えなくなってしまう。

こちらとしてもできる限りいい条件に持っていけるよう頑張りますから。」

といった感じのやり取りも効果的でしょう。

あとは、監督官に対して改善しているという誠意を見せるべきでしょう。

わからないことは監督官に直接電話で聞いたり、意見をもらったりして、「一生懸命改善していくんだ」という気持ちを見せておけば、相手も人間ですからやたら厳しいことは言わない場合が多いのです。




労働基準監督署から調査の案内が来たら、すぐに専門家に相談して下さい!

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